浪の下にも都のさぶらふぞ

l c 伊豆の踊子
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ここできみに会へるなんて…まゆちゃん、大きくなつても子供のころそのままだね。私たちは、きみの手のひらの上で、遊んでゐるやうなものだつた。きみはいつも私たちを見まもつてくれてゐた。それとなく気づかつてくれてゐた。私たちの遊びには加はらずに、すこし離れたところから、みんなを注意深くみてゐた。私たちが急な流れの川のそばにいると、あぶないから気をつけてと、かならず注意をした。そんなまゆちゃんが、川に流されたときいた時は、神さまなどいないと思つた。でもかうして会へたのだから、まゆちゃんが流された川と、ミラー湖はつながつてゐるのだらう。

〈私はもどります、浪のしたの都にいるから、いつでもいらしてください〉

まゆちゃんの気配がきえた。

ベランダで、ミラー湖の水面を眺めながらビールを飲んでいるうちに、うたた寝をしてゐたやうだ。日本からウィスコンシン州までは長旅だつた。ピーターソン・コテージには二泊の予定である。明日の夜に浪のしたの都へ、まゆちゃんを訪ねてみやう。きつとよろこんでくれるにちがひない。

浪のしたにも都のさぶらふぞ

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